マンション経営を既に行っている人または行うかどうか検討している人の中には、個人の副業として行うべきか、会社として行うべきか悩んでいる人もいると思います。
どちらもメリットとデメリットがあるため、どちらを選んだ方が良いとは言い切れません。経営状況によっても異なるため、会社としてマンション経営を行う場合はよく考えてから行った方が良いと言えます。
この記事では、マンション経営を会社として行う場合におけるメリットと注意点について解説します。
会社でマンション経営を行う5つのメリット
生活費の足しや老後に備えるためにマンション経営を個人の副業として行っているという人も多いと思います。しかし、「会社としてマンション経営を行った方が良い」という話を聞いて、会社に切り替えるか、最初から会社としてマンション経営を行うか悩んでいる人も多いのではないでしょうか?
確かに個人の副業としてマンション経営を行うよりも会社として行った方が多くの恩恵を受けられる場合があります。しかし、必ず恩恵を受けられるとは限らないため、どのようなメリットとデメリットがあるのかをよく理解した上で選んだ方が良いと言えます。
会社でマンション経営を行う場合のメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 税負担が軽減する
- 計上できる経費の種類が増える
- 損失の繰越期間が長くなる
- 損益通算を行いやすくなる
- 相続税の節税効果が高まる
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
税負担が軽減する
個人の副業としてマンション経営を行う場合は、マンション経営によって得られた所得は不動産所得として扱われます。不動産所得は、単独で税金が課されるわけではありません。給与所得といった他の所得と合算した合計金額に対して税金が課されるという点に注意が必要です。所得税の税率は合計金額によって以下のように異なります。
合計金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下 | 5% |
195万円超330万円以下 | 10% |
330万円超695万円以下 | 20% |
695万円超900万円以下 | 23% |
900万円超1,800万円以下 | 33% |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
会社としてマンション経営を行う場合は、法人税が適用されて一律23.2%(年800万円を超える法人)となります。
例えば、給与所得が500万円、不動産所得が500万円の場合は、合計1,000万円なので33%の所得税が適用されます。会社として行う場合は、23.2%の税率が適用されるため、個人の副業として行うよりも税負担を軽減できるでしょう。
計上できる経費の種類が増える
個人の副業としてマンション経営を行う場合の不動産所得は、マンション経営で得られる総収入から諸経費を引いて残った金額を表します。
例えば、管理会社に支払う管理委託費や経年劣化によって資産価値が減少する減価償却費、修繕費などはマンション経営に関する費用なので経費に計上することが可能です。しかし、マンション経営に関係ない費用は経費に計上できないという点に注意が必要です。
一方、会社でマンション経営を行う場合は、会社の経営に関する費用を経費に計上できます。例えば、小規模企業共済や中小企業倒産防止共済の掛け金、役員の生命保険料、出張手当、役員用の社宅家賃といった費用も経費に計上可能です。計上できる経費の種類が多いほど所得を抑えられるため、節税効果が高くなるでしょう。
損失の繰越期間が長くなる
マンション経営を始める際は、まずは投資用マンションを購入します。投資用マンションを購入するといってもマンションの購入費用だけでなく、印紙税、登録免許税、不動産取得税、不動産会社に支払う仲介手数料などの多くの費用がかかります。
そのため、マンション経営を始めた初年度は赤字経営に陥る可能性が高いので注意が必要です。翌年は初年度のような費用がなくなるため、黒字化する可能性が高く、利益に対して所得税が課されることになります。
しかし、繰越控除を利用すれば翌年以降の所得税を抑えることが可能です。繰越控除とは、赤字を繰り越して翌年以降の黒字を減らして所得税を軽減することです。
個人の副業としてマンション経営を行う場合は青色申告を行えば最大3年繰り越せます。一方、会社として行う場合は最大10年繰り越すことが可能です。繰越期間が長くなれば、節税効果をより高められるでしょう。
損益通算を行いやすくなる
損益通算とは、利益と損失を合算することです。マンション経営で500万円の家賃収入を得られた年に、マンションを売却して500万円の譲渡損失が生じたとします。500万円の利益から500万円の損失を引いて収支をプラスマイナス0と考えるのが損益通算です。
しかし、損益通算できるかどうかは、マンション経営を個人の副業として行っているのか、会社として行っているのかによって異なります。
個人の副業としてマンション経営を行っている場合には、得られた家賃収入は不動産所得、譲渡によって生じた損失は譲渡所得として扱われます。これらの所得は性質が異なるため、損益通算を行うことができません。上記の条件ではプラスマイナス0にならず、所得税が課されることになります。
会社としてマンション経営を行っている場合には、異なる所得でも損益通算を行えるため、税負担をさらに軽減できるでしょう。
相続税の節税効果が高まる
不動産は相続税の評価額を下げられるため、現金よりも不動産として相続した方が良いと聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?確かに、現金よりも不動産は評価額が下がるため、相続税の節税効果が期待できます。
相続税の節税効果は個人の副業としてマンション経営を行った場合にも期待できますが、会社として行った場合はさらに相続税の節税効果が高まります。
例えば、マンション経営を始めるにあたって、マンションを購入したのが会社だった場合、経営者が亡くなって子供が経営者に変わった場合でも所有者は会社のままです。「所有者が変わらない=相続が生じない」ということなので、相続税を抑えることが可能です。
会社としてマンション経営を行えば、所得税だけでなく相続税も抑えられるため、税負担を軽減したいという人は、会社化を検討した方が良いと言えるでしょう。
会社でマンション経営を行う3つのデメリット
会社でマンション経営を行うことによって、所得税や相続税の税負担を軽減できることが分かりましたが、デメリットも伴います。会社でマンション経営を始めても、デメリットが原因でマンション経営に失敗する可能性もあるため、どのようなデメリットがあるのかを理解した上で会社化することが重要です。
会社でマンション経営を行うデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 会社化するのにある程度の費用がかかる
- 経営状況に関係なく支出が発生する
- 業務負担が大きくなる
それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
会社化するのにある程度の費用がかかる
会社としてマンション経営を行う場合には、まず法人を設立しなければなりません。法人の設立は書類を提出すれば簡単にできると思っている人もいるかもしれませんが、設立にはある程度の費用がかかるので注意が必要です。
例えば、株式会社を設立する場合には、登録免許税として15万円、定款認証手数料として5万円、定款謄本手数料として2,000円が最低でもかかります。株式会社ではなく、合同会社を設立する場合でも、登録免許税として最低でも6万円がかかってしまいます。
定款を作成する際に電子定款を利用しない場合、印紙代として4万円がさらにかかるので注意が必要です。法人の設立は自身で行うことも可能ですが、手続きに不備があると何度も手続きのやり直しを行うため、時間と手間がかかります。
スムーズに法人を設立するには司法書士といった専門家に依頼することをおすすめします。しかし、司法書士に依頼すると数万円程度の報酬がかかるため、会社化を予定している人は事前に必要な費用をしっかりと確保しておきましょう。
経営状況に関係なく支出が発生する
個人の副業としてマンション経営を行っている人の中には、赤字経営になってしまう人もいます。個人の場合は赤字経営になると、不動産所得に税金が課されることはありません。
しかし、会社としてマンション経営を行っていて赤字経営になっても、経営状況に関係なく法人住民税は課されるので注意が必要です。法人住民税の税額は地域ごとに異なりますが、最低でも7万円は課されます。
経理処理が個人とは異なる部分が多く、税務調査でトラブルに発展する可能性も高いので注意が必要です。経理処理を税理士といった専門家に依頼する場合は、数万円程度の報酬を支払わなくてはなりません。
経営状況に関係なく生じる支出がいくつかあるため、会社でマンション経営を行う場合にどのような支出が発生するのかを理解しておくことが重要と言えるでしょう。
業務負担が大きくなる
個人の副業としてマンション経営を行う場合、マンションの管理を不動産会社に任せればオーナーの業務は確定申告程度で済みます。
しかし、会社でマンション経営を行う場合、マンションの管理を不動産会社に任せていても経理処理や従業員の社会保険・源泉徴収の手続きなどを行わなくてはなりません。個人では必要のなかった業務を行わなくてはならないため、業務負担が大きくなります。
業務負担を軽減するために、司法書士や社会保険労務士、税理士などの専門家に依頼すれば業務負担を軽減できますが、報酬による支出が増えるという点に注意しましょう。
会社でマンション経営を行う場合の注意点
会社でマンション経営を行った場合のメリットとデメリットを比較して、メリットの方が優れているという理由から会社でマンション経営を行おうと考えた人もいると思います。
しかし、会社でマンション経営を行う場合は、後でトラブルに発展する可能性があるため、デメリットだけでなく以下の2つの注意点を理解しておく必要があります。
- 副業規定に抵触する可能性がある
- 譲渡税が発生する可能性がある
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
副業規定に抵触する可能性がある
働きながらマンション経営を行っているサラリーマンオーナーがマンション経営を会社に切り替える場合、副業規定に抵触する可能性があるので注意が必要です。
全ての会社の就業規則に副業規定が設けられているわけではありませんが、社員を本業に集中させる、同業他社に技術や情報が漏れることを未然に防ぐために、副業を禁止している会社もあります。
株式投資や不動産投資といった資産運用は副業に該当しないと考えられるケースが多く、マンション経営を行っていても副業規定に抵触することはほとんどありません。
しかし、会社としてマンション経営を行う場合、資産運用の範囲を超えていると考えられるケースが多く、マンション経営が副業規定に抵触する可能性が高くなります。
会社としてマンション経営を行っていることが勤務先にバレた場合、勤務先を解雇になる可能性もあります。勤務先とのトラブルを防ぐためにも、勤務先に確認してから会社としてマンション経営を行うようにしましょう。
譲渡税が発生する可能性がある
最初から会社としてマンション経営を始める場合は特に問題ありませんが、途中で会社に切り替える場合は既に持っているマンションを会社に売却することになります。
会社にマンションを売却したことによって売却益が生じた場合、譲渡所得に対して税金が課されますが、税率は所有期間によって以下のように異なります。
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 20.315% |
所有期間の算出基準となるのは、マンションを売却した年の1月1日時点です。例えば、2015年5月1日にマンションを購入し、2020年5月2日に売却すると長期譲渡所得の条件を満たしているように思いますが、1月1日時点だと所有期間は4年になります。
会社にマンションを売却したことで思わぬ税金を課される可能性があるため、譲渡所得が発生するのか、発生する場合は長期譲渡所得の条件を満たしているのかよく確認してから売却しましょう。
マンション経営の会社化に適したタイミングとは
マンション経営を会社化したからといって、必ずメリットが得られるわけではありません。不動産所得や給与所得などを合算した金額が900万円を下回っている場合、所得税の方が法人税よりも税率が低いため、会社化した方が多くの税金を課されることになります。
そのため、会社化を検討しているのであれば、不動産所得や給与所得などを合算した金額が900万円を超えるのが会社化を考える1つのタイミングと言えます。
マンションの価値が上がっていて譲渡所得が発生する場合、税率が下がる所有期間5年を超えてから売却するのも1つのタイミングです。
いつ会社でマンション経営を行っても得をするわけではありません。適切なタイミングをよく考えた上で会社に切り替えるまたは会社でマンション経営を始めましょう。
まとめ
マンション経営は、個人の副業として行う方法と会社として行う方法の2種類あります。マンション経営を行っている人やこれからマンション経営を行おうとしている人の中には、会社に切り替えるまたは会社でマンション経営を始めた方が良いのか気になっている人も多いと思います。
会社でマンション経営を行った場合には、所得税や相続税などの税負担を軽減することが可能です。しかし、会社化には費用がかかる、業務負担が大きくなるといったデメリットも伴います。
サラリーマンオーナーが会社でマンション経営を行う場合、副業規定に抵触して勤務先とトラブルに発展する、会社化のタイミング次第ではメリットを十分発揮できない可能性があります。
そのため、会社でマンション経営を始める場合は、メリットとデメリット、注意点、適切なタイミングなどをよく理解してから始めましょう。